vol.47 游ゴシックの魅力と和文書体の歴史
こんにちは。デザイナーの寺田です。
今回は「游ゴシック」の魅力と和文書体の歴史についてご紹介します。
游ゴシックはここ最近、Webフォントとして使用しているサイトをよく見かけます。 BOELのサイトも最近「Noto Sans」から「游ゴシック」に変更しました。
MacとWindowsの標準フォントとしてインストールされています。 そのため、外部からフォントを呼び出すよりもサイトの表示スピードを早く表示することができます。 Windows 8.1から配布され、2015年10月のWindows 10よりシステムフォントとして採用されました。 なぜ「游ゴシック」が綺麗に読みやすいフォントとして使用されるのか分析をしています。 「游ゴシック」の魅力を紹介する前に、和文書体の歴史からご紹介します。
いくつ知ってる?和文書体の分類
和文書体の分類をみなさん、いくつ知っていますか。
「明朝体」や「ゴシック体」の2つはよく耳にすると思いますが他は、頑張って「教科書体」がでるかでないかでした。
大きく7種類に和文書体を分類することができます。
・明朝体
・ゴシック体
・楷書体(かいしょたい)
・教科書体
・隷書体(れいしょたい)
・宋朝体(そうちょうたい)
・篆書体(てんしょたい)
書体の特徴と違い
◎明朝体
・10世紀中国の木版印刷(彫刻)の分業化によって生まれた近代的な書体
・横画(よこかく)※1の右端に三角状のウロコがある
・筆で書いた時の終筆での止めを形にしている
・縦画(たてかく)※2が横画より太い
※1:漢字の横の線のこと
※2:漢字の縦の線のこと
◎ゴシック体
・ウロコがない
・縦画(たてかく)も横画(よこかく)も同じ太さに見えるように設計されている書体が多い
・起筆や終筆の先端が角張っている「角ゴシック体」と丸みを帯びている「丸ゴシック体」にわかれる
◎楷書体(かいしょたい)
・7世紀ごろに中国に現れた「真書体」の流れから来ている
・毛筆による楷書体の名筆を手本に設計された書体
・線は柔らかく、縦画(たてかく)と横画(よこかく)の太さの差が少ない
・起筆は斜めで、右角は軽く止められ、払いはゆったりとして、終筆は軽く抑えられている
◎教科書体
・中国の楷書体の毛筆による勢いを抑えて、日本で教育用図書のため設計された書体
・毛筆の穏やかな動きが様式化されていて、均質で明るく明瞭な書体
・線は柔らかく、縦画(たてかく)と横画(よこかく)の太さの差が少ない
◎隷書体(れいしょたい)
・篆書体(てんしょたい)から発展し、紀元前3年以降の中国で整えられた書体
・中国の国家標準書体として、約800年使われ民衆化した
・竹簡(ちくかん)や木簡(もっかん)に書かれ、限られたスペースに多くの文字を書くために文字が平べったくなった
・横画(よこかく)の終筆部分に見られる波のようにうねる「波磔(はたく)」がある
◎宋朝体(そうちょうたい)
・17世紀の清から現れた木彫りの特徴を残す書体
・鋭く彫った造形を持つ
・横画(よこかく)はやや右上りで、はらいが鋭い
◎篆書体(てんしょたい)
・紀元前8〜9世紀中国の戦国時代から現れた象形文字的な要素が濃厚な書体
・曲線が絡み合い、線の太さの差がない
・象形文字的な「大篆(だいてん)」と、大篆(だいてん)が簡略化された「小篆(しょうてん)」に分けられる
・「小篆(しょうてん)」は奏時代に公共の文字として規格化される
書体の分類の7つをご紹介しました。
7つを比べると「ゴシック体」がシンプルな書体であるとわかります。
こらからは「游ゴシック」の背景についてご紹介します。
游ゴシックは游明朝と一緒に使うことを想定して作られた
◎游明朝体
2002年に游明朝体が発売されました。字游工房初の独自書体です。
コンセプトは、新しい本格的な本文明朝を作り、藤沢周平の小説を組める書体を基本しました。
そこで、活版印刷に立ち返ることにしたそうです。
長文縦組みに適合し、ベタ組みを基本としました。
伝統的な形を継承しつつ、抑揚のあるしっかりしたものを目指しました。
仮名は秀英書体をベースにデザインをしています。
字游工房の設立メンバーさんの鈴木勉さんが制作をしていましたが病に倒れ、途中から鳥海修さんと字游工房の社員によってつくられました。
◎ちょっと横道。「ベタ組み」って?
ベタ組みとは、文字の全角に当たる正方形の枠(ボディ)に隙間なく並べて構成する組み方のことです。
このボディが正方形であることで日本語は、縦にも横にも組むことが可能になっています。
◎游ゴシック
2008年に発売されました。
長文でも読みやすいことをコンセプトに、游明朝をベースに游明朝と一緒に使うことを想定して作成されました。
英数字はFranklin Gothicを手本にデザインされています。
こぶりなゴシックとよく似ていますが、游ゴシックはすべての角が丸くなっており、より大人のデザインになっているそうです。
スタイリッシュかつ暖かみを与える游ゴシックを分析
今回、游ゴシックとNoto Sans Japaneseを比べて、游ゴシックを分析します。
Noto Sans JapaneseはGoogleとAdobeが共同に開発したフォントです。
世界のあらゆるフォントをサポートすることを目標に作られました。
フォントウェイトの数が多く、使いやすいフォントです。また、無償で配布されています。
游ゴシックとNoto Sans Japaneseを比べてわかったことは4点あります。
・ゴシックだけど、角に丸みがある(ウロコに似た丸みを持つ)
・独特なはらいの形を持っている
・他の文字よりカーブの丸みが緩い
・他の文字より余白がコンパクト
・ゴシックだけど、角に丸みがある
起筆部分にウロコのような丸みがあります。ウロコのような丸みを入れることで、ゴシック体にも関わらずどこか暖かみを与えていますね。
Noto Sansはウロコのような丸みをつけず、角張り少し無骨な印象です。
・独特なはらいの形を持っている
終筆時のはらいのような形をしています。線の中央部分が少しえぐれていますね。
Noto Sansも少し終筆部分がえぐられているように見えますが、よくよく目を凝らしてみないとわからない程度です。
終筆部分の塗りを少なくすることで線が鋭く見え、シャープな印象を与えます。
ここまでは、游ゴシックって明朝体の形を継承しているゴシック体なんだ。と感じました。
残り2つを細かく見ていくとなぜ游ゴシックがスタイリッシュな印象を与えるのかがわかるとおもいます。
・他の文字よりカーブの丸みが緩い
これは「ラ・シ・フ」を見てみましょう。
Noto Sansに比べ、カーブが緩いです。
丸みを出す部分を直線的にすることにより、エッジの効いた印象を与えています。
ゴシック体が丸みをつけないところに丸みをつけ、丸みの出す部分を直線的にするなんて、ギャップが激しいです。
・他の文字より余白がコンパクト
これは「コ」を見てみましょう。
游ゴシックは他の文字より、小さめに作られていることもありますが、「コ」に注目すると 「コ」の中の余白がNoto Sansよりも小さいのがわかります。
白の空間が小さいため、ひとつの文字がコンパクトでシャープに見えます。
おわりに
いかがでしたか?
和文書体の歴史や游ゴシックのコンセプトを取り上げました。
欧文書体については、前回のTIPS「vol.37識別性、可読性の高いGill Sansの歴史と特徴」と「vol.1古くから愛されるフォント“TRAJAN"の魅力」で取り上げてましたが、 和文書体についてあまり考える機会がありませんでした。
みなさんはどうでしょうか。
当たり前ですが気づいたことは和文書体は本来、縦組みを想定して作られているということです。ですが、縦組みと横組みどちらも綺麗に見ることができます。それは、日本の書体デザイナーがフォントの使うシーンをよく考えて制作しているからだと感じました。
この記事がデザイン制作の参考になればとおもいます。
参考サイト